「編集者を目指す君へ。」角竹輝紀インタビュー

写真=株式会社マイナビ出版代表取締役 社長執行役員 角竹輝紀 撮影=鎌倉知洋 

編集者を目指す君へ。

マイナビ出版は 「いつでも、 どこでも、 誰にでも、知りたいことを、 知りたいかたちで。」 を理念に掲げ、 学びたい気持ちを持つすべての読者に向けて出版活動を行なっている。 マイナビ出版代表取締役 社長執行役員の角竹輝紀は編集者として多くの本を手がけてきた。 紙媒体離れも進むというこの時代に、 編集者を目指そうという君へ。
「編集」という行為はすごく面白い。

      編集者になろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

角竹:小さいときから本は好きでよく読んでいましたし、 小説家になろうかと文章を書いていた時期もあったんです。 でもいろいろと読んでいるうちに、本の本体以外の部分、 例えば目次や索引、 いろいろなところに本を読みやすく分かりやすく、楽しませるための仕掛けがあるなと気づいたんですよね。 これが編集の仕事か、 と思いました。編集も面白そうだと思い、編集者の仕事に就くことにしました。

      これまでどのような本に携わられましたか。

角竹:新卒で入社してからは、 基本的にはずっとIT関係の本を作ってきました。ちょうどITの技術が発展する時期でしたから、 インターネットや、 Webデザイン、 スマートフォン、 AIなど、 その時々のニーズに合った書籍を編集してきました。

      書籍編集とは一般的にどのようなことをするのでしょうか。

角竹:本を作るにはふたつのフェーズがあると思っています。本ができるまでと、 本ができてからですね。 まず企画を考えて、それを会社にプレゼンする。そして実際に著者やデザイナー、いろいろな関係者を巻き込んで作っていく。 もし途中で巧く進まなかったら、 相談に乗ったりもする。 そうして本ができるまで関わるというのが前半です。 でも実際、 それを届けるべき人に届けないと意味がない。 販売について考えるのも編集の仕事になりつつあります。そういう意味では、 本の一生に伴走するのが編集であると思っています。

      本を制作する段階で、 どのように読者を想定されていますか。

角竹:最初にテーマを考えるときに、「誰が、 いつ、 どのように読むのか」 というシーンを考えていくんですね。家なのか職場なのか、 仕事として読むのか趣味として読むのか。 料理の本であれば、 キッチンで読むのに適したデザインや紙面を考えないといけない。読者像とテーマは、 一緒に考えなければならないものだと思います。
 テーマを考えるということは、 そこにあるニーズを考えることだと思います。料理本ひとつとっても、 休みの日に作る料理もあれば、帰ってきてから時間がない中で作る料理もある。 そういう場面を少しずつ考えていきますね。単に売れればいいというわけではなく、届けるべき人に届けることが大事なんです。

      制作に携わった中で、 特に印象に残っている本はありますか。

角竹:一番印象に残っているのは『ノンデザイナーズ・デザインブック」です。本の内容自体は変わっていないけれど、人々の受け人れ方が変わってきた、 と感じているんです。デザインの原則を説明したデザイン初心者向けの本であって、 Webデザインの話もアプリデザインの話もほとんど書かれていない。でも時代が変わるにつれ、 それらに関わる読者も手に取ってくれるようになりました。本の内容自体はほとんど変わっていないのに、 読者が広がっていった、 本自体のコンテクストが変わっていった、 それを実感できたのは貴重な体験でした。

ノンデザイナーズ・デザインブック

      編集者に求められる能力とはどのようなものでしょうか。

角竹:企画に関しては、 読者は当然自分ではないわけで、 世の中の流れや動向を見る広い視点は必要だと思います。
 その一方で、広いだけでは意味がない。基本的に類書が必ずありますから、類書と差別化し、読者を惹きつけ、買ってもらうために、 尖らせる力も必要です。広いだけじゃなくて、 一箇所でも読者に刺さる魅力を本に盛り込むことが必要なんです。 それから、 その魅力を社内や外部に伝えるためのプレゼン力も重要でしょう。
 もう一つ、本は編集者だけでは作れません。著者がいてデザイナーがいる。印刷会社もいるし、 販売担当も広報担当もいる。 その人たちの間を取り持ち、巧く進めていくためにも、コミュニケーション能力は必要ですね。
 編集者は、 本づくりというチームのなかで、 リーダーではあるけどトップではないんですよね。決定権はあるけれども、命令すればみんなが動くというものでもない。 いろんな関係者がきちんと動いてくれるようにする調整力が必要なんです。

      学生が編集者を志すうえで、 しておいたほうが良いことはありますか。

角竹:出版業界自体が変わりつつありますよね。紙媒体だけじゃなくて、デジタルシフトも進んでいく。 IP(知的財産) キャラクターを使った商売もあります。 紙だけではない部分も含めて、 各出版社がどのような動きをしているのかは見ておいたほうが良いと思います。販売促進について考えることも大切なので、 紙もWebも含めて、出版社がどうやって読者と繋がろうとしているかを考えてみるといいと思いますね。

       編集者を目指す学生に向けて、 一言あればお願いします。

角竹:編集の面白いところは、自分や他の人の興味のあること、 知っておいたほうがいいこと、 知っておくと楽しくなることを届けることができるところです。企画から制作、 販売促進まで、本づくりのほとんどに関わることができるのもいいですね。 それから、 企画にかこつけて会いたい人に会うことができるのも面白い。
 贅沢なんです。
 伝えたいものがある人は、 それを伝えることができることも面白いし、新しいことにチャレンジできるのも刺激的です。
 出版業界が大変というニュースはよく流れてきますが、 出版社もどんどん変わっていきますし、 コンテンツ自体は人間にとって不可欠だと思います。みんなが知りたいことを知りたい形で伝えられるのが、編集の大きな魅力だと思います。

角竹輝紀(かくたけ あきのり)
1969年生まれ。九州大学法学部卒。1991年、株式会社毎日コミュニケーションズ (現・株式会社マイナビ)に入社、 出版事業部門に配属。 書籍を中心とした編集業務に従事。 2015年、 出版事業部門の分社化にともない、 株式会社マイナビ出版に移籍。書籍編集部長を経て、2018年、取締役(編集担当) に就任。 2022年、代表取締役 社長執行役員に就任。

掲載メディア:WASEDA LINKS vol.49「編集」(発行:早稲田リンクス
取材・文:鎌倉知洋

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